不動産投資をしている人にとって、非常に大きな税金として消費税があります。消費税があるために不動産の利回りが悪くなり、経営にも大きく響いてくるようになります。
そこで、不動産投資家では消費税還付をすることによって節税し、支払った消費税を取り戻そうとする人がたくさんいます。もちろん脱税ではなく、合法的な手法によって消費税還付を受けることで税金を取り戻すことを考えるのです。
こうした手法として、かつて頻繁に行われていた手法として自動販売機を用いたものがあります。不動産の消費税還付を自販機によってしていましたが、税制改正による節税封じがありました。
ただ、これらの節税スキームの封じ込めによって消費税還付が絶対に無理になったわけではありません。そこで、どのようにして不動産投資をしている法人が消費税還付を受けて節税すればいいのかについて解説していきます。
もくじ
払いすぎた消費税が戻ってくる仕組み
不動産投資でどのようにして消費税を減らすのかについては、消費税の仕組みについて理解しなければいけません。
お客さんとして消費税を支払うとはいっても、消費者が直接国に税金を支払っているわけではありません。実際、普通のサラリーマンでは税務署にお金を支払ったことのない人が大多数です。実際に消費税を払うのは法人などの店舗側であり、何か商品やサービスを販売したときにお客さんから消費税を預かり、後でお客さんの代わりに消費税を納めます。
ただ納税するとき、お客さんから預かった消費税の全額を納めるわけではありません。
事業活動をするうえで経費として支払っているものには、当然ながら経費の支払いには消費税が含まれることになります。例えばパソコンを購入したり、設備投資をしたりすれば、相手企業に消費税を払うことになるのです。
そこで、「ビジネスをすることでお客さんから預かった消費税」から、「経費として支払ったときの消費税」を差し引いて、消費税分の納税をします。
そのため、例えば売上が1,000万円の場合だとお客さんから100万円の消費税を預かることになります。
- 売上1,000万円 × 10%(消費税率) = 100万円
ただ、それまでに経費として200万円を支払っている場合、このとき支払いには消費税が課せられて20万円の消費税を払っていることになります。
- 経費200万円 × 10%(消費税率) = 20万円
そこで二重課税を防ぐため、消費税の納税額を計算するときは「利益に対しての消費税」にします。
- (売上1,000万円 - 経費200万円) × 10%(消費税率) = 80万円(消費税の納税額)
消費税というのは、このようにして計算します。
払いすぎた消費税が戻ってくる仕組み
ただ、場合によっては消費税の払い過ぎというケースがあります。大きな設備投資をしたときなどを含め、多くの消費税支払いをしてしまうのは法人経営者では珍しくありません。
売上よりも経費が大きく、赤字だと消費税支払いが多くなるのは普通です。この場合、後で消費税が戻ってきます。例えば売上1,000万円の場合、消費税は先ほどと同じ100万円です。
- 売上1,000万円 × 10%(消費税率) = 100万円
もし、経費として1,500万円を支払っている場合、それまでに支払っている消費税は以下のようになります。
- 経費1,500万円 × 10%(消費税率) = 150万円
これだと、「150万円 - 100万円 = 50万円」ほど、消費税をたくさん払っていることになります。そのため、こうした赤字企業は払いすぎた消費税(今回は50万円)が後で戻ってくるようになります。
賃貸収入は非課税取引であり、通常は消費税還付がない
そうしたことを考えると、不動産投資は非常に大きな買い物になるため、通常であれば全員が消費税還付を受けることになります。例えば1億円の新築または中古不動産を購入する場合、1,000万円もの高額な消費税を支払っていることになります。
- 1億円 × 10%(消費税率) = 1,000万円
それでは、個人事業主や法人を含め不動産投資をしている人が払いすぎた消費税を取り戻しているかというと、全員が消費税を取り戻しているわけではありません。この理由としては、個人が大家(不動産投資をしている人)に支払う賃貸物件に消費税が含まれていないからです。
お金の移動があるとき、すべての取引で消費税が課せられるわけではありません。消費税が非課税となる取引も存在するのです。
例えば給料の支払いです。会社が社員に支払いう給料には消費税が含まれていません。そのため、どれだけ給料を払って経費にしたとしても、会社は損金(給料の支払い)の分だけ消費税を減らすことはできません。
同じことは賃貸住宅の収入でもいえます。個人が大家に支払う賃貸住宅のお金については、消費税が含まれないことになっています。消費税が含まれる売上を課税売上といいますが、不動産投資での収入は消費税が含まれない非課税売上となります。
そのため、どれだけ不動産収入が多かったとしても非課税売上が増えることになります。
・非課税事業者だと消費税還付がない
このとき、消費税還付を受けるためには条件があります。それは、課税売上の割合が大きいことです。つまり、消費税を含んだ売り上げ(課税売上)がないと消費税還付を受けることはできません。
より正確にいうと、課税売上の割合に応じて消費税還付を受けられます。例えば不動産購入に伴って消費税を500万円ほど払いすぎている場合、課税売上割合100%の法人であれば消費税の還付金は500万円です。
一方で課税売上の割合が80%の場合、400万円の還付金となります。
- 500万円 × 80%(課税売上の割合) = 400万円
ただ、個人から不動産賃料を得るビジネスモデルである以上、不動産投資での課税売上はほとんどありません。課税売上の割合は0~1%ほどになるのが基本であり、不動産投資会社は非課税事業者に該当します。消費税を含む売上がない以上、消費税還付を受けることはできないのです。
自動販売機を用いた節税スキームの仕組み
しかし、高額な消費税を払っているにも関わらずまったくお金が戻ってこないのは損です。そのままだと無駄に消費税だけ納めることになってしまうため、何とかして新築・中古の建物取得のときにかかった消費税を取り戻すことを考える不動産投資家がたくさんいるのです。
そのときに頻繁に活用されたのが自動販売機です。かつては自販機スキームを活用して、不動産投資を行う個人事業主や法人が新会社を設立し、消費税還付をしていました。
このときの仕組みとしては、ザックリと以下のようになります。
- 消費税課税事業者選択届出書を提出し、敢えて消費税を支払う選択をする
- 不動産購入と同時に自動販売機を設置する
- 家賃売上を翌年に回し、自動販売機の売上だけを計上する
- 課税売上を100%にする
新会社を設立する場合、2年間は消費税の免税事業者になることができます。つまり、消費税を支払わなくても問題ありません。ただ、消費税の支払いがない法人(非課税事業者)の場合、前述の通り消費税還付はありません。そこで、消費税課税事業者選択届出書を提出することで敢えて消費税を支払うように選択します。
その後、不動産を購入します。それと同時に自動販売機も設置します。
ただ、実際の家賃収入による売上について、初年度は売上計上しないようにします。全額を翌年に回し、その代わりとして自販機からの売上だけを計上します。
重要なのは、賃料収入は非課税売上であるものの、自動販売機での売上は消費税が加わっている課税売上である点です。会社の決算書には自動販売機の売上(課税売上)だけが載るため、課税売上は100%です。
不動産会社であったとしても、課税売上100%の法人である以上、払いすぎた消費税は全額が還付されなければいけません。そのため、自販機を利用することで払いすぎた消費税を合法的に取り戻すことができたわけです。
自動販売機を設置するだけで何百万円、何千万円ものお金が戻ってきます。初年度は売上の発生がほとんどないものの、初年度の賃料収入は翌年に合算されて入ってきますし、これについては特に大きな問題は起こりません。
それだけでなく、多額の消費税が戻ってくるのでこれだけでも利回りが0.5~1%も違ってくるようになったのです。
2016年の自販機スキームの封じ込めによる無効化
しかし、現在はこうしたやり方が難しくなっています。消費税還付による節税策が問題視されるようになったからです。2010年や2016年に税制改正が行われたのですが、これらの法改正によって自販機スキームは封じられるようになりました。
最終的にどのようになったかというと、以下のようになっています。
- 不動産を購入した後、3年以内に課税売上割合が大きく変動したら、後で還付した消費税を戻さないといけない
- 不動産の購入後、3年間は免税事業者・簡易課税へ変更できない(調整計算の対象になる)
まず、自販機スキームを活用する場合は課税売上の割合が大幅に変動することになります。初年度は自販機だけの売上を計上するものの、2年目や3年目には賃料収入が入ってきます。当然、自動販売機の売上に比べると家賃売上の方が圧倒的に大きいため、課税売上の割合は1%ほどになってしまいます。
その場合、後で還付された消費税を返納しなければいけません。
具体的には、初年度の課税売上割合に対して、「3年合計での課税売上の割合」を差し引いた割合だけ消費税還付金を戻す必要があります。
前述の通り、初年度は課税売上100%にすることができます。ただ、3年間の合計では家賃売上が圧倒的に多く、全体の課税売上は1%ほどになります。その場合、以下の分だけ還付金を返納しなければいけません。
- 100%(初年度の課税割合) - 1%(3年合計の課税割合) = 99%(返納する消費税)
つまり、還付された消費税のほとんどを返さなければいけません。そのため無意味な節税スキームとなってしまい、現在は不動産購入と同時に自動販売機を設置するだけでは消費税還付をしても返納する義務を生じるようになりました。
3年間の課税割合と比較したうえで、「課税割合が大きく変動しているか」「不動産取得時と比べ、どれだけ課税割合が変わっているか」を見ることを調節計算といいます。不動産を購入すると同時に課税事業者になる届出をすると、3年間は必ず調節計算の対象になるのです。
駐車場や法人賃貸などで、3年間の課税割合を増やす節税対策
それでは、自販機スキーム封じによって新築や中古の不動産を取得したときに支払った消費税還付が完全に無意味になったのかというと、必ずしもそういうわけではありません。やり方によっては同じ仕組みによって消費税還付を受け取ることができます。
このとき、不動産取得と同時に自動販売機を設置するという節税スキーム自体に変わりがありません。違うのは、2年目以降の課税売上を増やすように努力することにあります。
還付された消費税を返さなければいけないのは、課税売上割合が大きく変動したときだけになります。逆に言えば、不動産を取得して3年間のうちに課税売上割合が著しく変わっていなければ、消費税を返納しなくても問題ないことになります。
それでは、「課税売上が大きく変動している場合」というのは、どのような状況なのでしょうか。これは、2年目以降も「個人からの家賃収入よりも、課税売上による売上割合の方が大きい」というケースとなります。
具体的には、3年合計の課税売上割合が51%以上であれば、消費税還付のお金を返さなくても問題ないとなっています。これであれば初年度に課税売上100%にすることで、ほぼ全額の消費税を取り戻せます。その後、3年合計での課税売上割合を51%になるように調節すれば消費税を返す義務は発生しません。
不動産投資では、前述の通り消費税のある課税収入があれば、消費税のない非課税売上もあります。これについて、以下のようになっています。
【課税売上(消費税が含まれる売上)】
- 自動販売機
- 駐車場
- 民泊
- 法人からの賃貸収入(店舗・事務所・オフィスビルなど)
【非課税売上(消費税が含まれない売上)】
- 住居用の家賃収入
同じ賃料を得るビジネスであっても、駐車場や法人からの賃料収入であれば、消費税が課せられます。そのため、こうした駐車場や法人からの家賃収入を増やすようにします。または、不動産業以外のビジネスを行うことにより、課税売上割合を増やしても問題ありません。
個人だと不可能ですが、既存法人であれば問題なく可能です。ただ、新規法人で消費税還付を受け、その後に課税売上割合を3年間51%以上に保つのが最も良いやり方です。
金売買による消費税還付スキーム
ただ、実際のところ不動産投資をしている人というのは、不動産収入がメインとなっているケースがほとんどです。
駐車場や店舗からの家賃収入があるとはいっても、住居用マンションからの賃貸収入の方が圧倒的に金額は大きくなります。また、その他のビジネスとはいっても不動産管理会社を運営しているケースがほとんどであり、別ビジネスでの売上を大きくできる会社は限られています。
そうしたとき、どのようにするかというと金地金(ゴールド)が登場します。金の延べ棒であるインゴットを利用することにより、課税売上を作るのです。
金売買は課税取引に該当します。つまり、金取引によってインゴットを売買すれば、それだけ大きな課税売上になります。
そこで金を買い、すぐに売ります。これであれば、プラスマイナスで出ていくお金は非常に少なくなります。ただ、売上については「金取引をした分だけ課税売上を作れる」ことになります。
例えば不動産収入が年間1,000万円あるとします。この場合、自動販売機や金取引などの課税取引による売り上げについて、1,000万円超えの売上を作れば課税売上割合が51%以上になります。そのため、200万円の金取引を年に5回するだけで条件をクリアします。
- 金取引200万円 × 5回 = 1,000万円
もちろん、不動産収入がさらに大きくなってもまったく問題ありません。その場合、一回の金の取引額や回数を増やすだけになります。
貴金属は価値が高いため、数回だけ売買を繰り返すだけで簡単に課税売上を構築できます。そのため金取引をうまく活用すれば、自販機スキームによる消費税還付をそのまま活用できるようになっています。
金取引の手数料の分だけお金が減るのはデメリット
金売買を用いた節税の仕組みは完全合法です。そのため、このようなやり方を利用したとしても大きな問題にはなりません。
ただ、消費税還付を受けられるのはメリットであるものの、デメリットはあるのでしょうか。これについては、一番のデメリットは金取引に関わる手数料です。金売買をすることによって、その手数料分だけお金が減っていくようになります。
現物で金の取引をする場合は一回の取引につき1~2%ほどの手数料になりますが、当然ながらそれでは利回りに大きく響きます。そのため、現物ではなくデータ上(ネット上)で金売買をすることによって手数料を抑えながら売上を作るのが一般的です。
ただ、そうした手数料を抑えた手法であっても売買を繰り返す分だけ手数料分のお金が減っていくことになります。
税務調査での指摘リスクがあり、専門の税理士が必要
それだけでなく、税務調査で指摘されるリスクもあります。会社に損失を与えることが分かっているにも関わらず、不動産管理会社が何度も金取引をしているのはどう考えてもおかしいからです。消費税還付を受けるため、課税売上を作ろうとしているのが誰でも分かります。
また、怪しい取引があると税務調査で指摘されるようになります。合法な節税手法ではありますが、このときの受け答えや金売買をした理由を説明できないと否認されます。
さらにいうと、通常の税理士では不動産管理会社での消費税還付スキームを活用することはできません。節税に強い税理士が指導するもとで「金売買によって確実に消費税還付を受ける条件としては何があるのか」「どのように売上を調節し、条件をクリアすればいいのか」を含めて綿密に実践する必要があります。
かつては自動販売機を設置するだけで可能だった簡単な節税対策ですが、現在は専門の税理士に依頼しなければ不可能な手法になっています。顧問税理士に依頼してもいいですが、少しでも不備があれば税務当局から否認されて意味がなくなるため、やり方や仕組みを理解している税理士に頼るのが基本です。
専門の税理士に依頼しなければいけないため、このときに新たな費用が発生してしまうのも消費税還付スキームのデメリットだといえます。ただ、全体で考えると節税額は非常に大きくなります。
・架空売上は脱税になる
なお、不動産管理会社として法人化した後に架空売上を作るのはやめるようにしましょう。金取引については、実際に売買をしているので完全合法な手法になります。ただ、架空売上を作るのは脱税です。何も取引していないにも関わらず、税金を納めないのは節税ではなく脱税になるのです。
実際、過去には自販機スキームを利用して消費税還付を受け、架空売上を計上することで課税売上を作り、3年間の課税売上割合を51%以上にして脱税した経営者がいます。ただ、この社長については脱税によって逮捕されました。
節税と脱税はまったく違います。節税は合法なので許されますが、脱税は逮捕されます。そのため、専門の税理士に相談したうえで必ず合法での節税対策を実施するようにしましょう。
新築や中古の不動産購入費用の還付を受ける
不動産投資家にとって大きな問題になるものの一つが消費税です。不動産を購入するときに大きなお金が出ていくことになり、このときは多額の消費税を支払わなければいけません。
そこで、多くの不動産投資家が消費税を返してもらえないかどうかを検討します。そのためにかつて頻繁に行われていた手法が自販機スキームです。
現在、自動販売機を設置する節税対策は封じ込められています。ただ、完全にやり方が無効化されたかというと、そのようなことはありません。実際、現在でも節税に詳しい経営者であるほど、消費税還付スキームを活用して消費税分を取り戻しています。
そのためには不動産を取得して「課税売上割合を3年間は51%以上にする」ことが必要になるため、この要件を満たすように調節します。節税に強い税理士と相談したうえで実施しなければいけませんが、こうした節税スキームを利用することでより、大きなお金を残しながら利回りを改善できるようになります。
ビジネスの継続を考えるとき、最も重要なのは節税です。節税策を一つ実施するだけで100万円以上の無駄な税金が減るのは普通ですが、何も対策をしなければ会社経営者や相続額が多い人は無駄に税金を支払い続けることになります。
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