病院やクリニックなど、医療法人を経営している医師はたくさんいます。こうした病院経営や医院経営では、どうしても気になるのが経費です。医療に関わっている以上は仕方ないですが、大きなコストがかかってしまうのです。
人件費が高額なのは当然として、医療材料や医療機器保守、損害保険などさまざまな費用を支払わなければいけません。
売上を増やすためには、患者さんを獲得すればいいです。ただ、固定費削減によっても利益を上げることができます。そうしたとき医療法人経営では、病院やクリニックの経費削減は何ができるのでしょうか。
病院とクリニックでは経営方法が異なるものの、コスト削減で考えるべき内容は同じです。そこで、これら医療法人で考えなければいけない固定費削減のアイディアを解説していきます。
もくじ
医療現場では医療行為のカットは難しい
たくさんある業態の中でも、経費削減が非常に難しい分野の一つが医療です。一般的な業態の経費削減では、以下の部分に着目します。
- 人件費(残業代を含む)
- 事務用品の見直し
- 通信費の見直し(法人携帯など)
もちろん、これらの削減を推し進めても問題ありません。ただ、病院やクリニックが実際にこれらを推し進めると、多くのケースで医療崩壊します。医療行為に関する経費項目については、固定費削減がかなり厳しいのが実情です。
人件費のカットは不可能
まず、医療現場で患者さんに医療を提供するためには、人件費のカットは不可能に近いです。すべての医療機関では、医師や看護師が働いています。また医療事務などの要員を含めると、さまざまな職種の人がいるといえます。
これらの人材は一般的に転職が容易です。特に医師や看護師などの資格職では、資格さえあればいますぐにでも他の病院やクリニックへ転職できてしまいます。
そのため給料を低くしたり、残業代をカットしたりしてもいいですが、確実に医療従事者(正社員)から不満が出ます。また一般的な会社と異なり、簡単に転職できてしまうため、あなたが経営する病院や医院から専門職の人が次々と消えていきます。
こうして看護師や医療事務を含め、優れた人材がいなくなった結果、医療経営が成り立たなくなります。病院や医院では、こうした事実を考えると人件費のカットは実質的に不可能だといえます。
医療材料や医療機器保守の経費削減も無理
また、人件費だけでなく医療材料を削減することも無理です。注射針やカテーテルなど医療材料は欠かせませんが、これらを利用せずに医療行為をするのは不可能です。
もちろん安い医療材料に取り換えてもいいですが、医療の質のグレードを落とすことになります。行えるとしても、卸会社からの仕入れ値を交渉して安くすることが考えられるものの、これらは既に何度も実施していると思います。つまり、値下げの幅がほぼありません。
同じことは医療機器保守にもいえます。医療機器はすべての病院・クリニックで購入またはリースすることになります。
このとき医療機器の保守・点検を含めたメンテナンスを怠ってもいいですが、むしろ機器が壊れたときのほうが金銭的損失は大きくなります。またメンテナンス費用の割引は期待できません。ここから、医療機器保守の費用についてコスト削減するのは微妙です。
医薬分業は効果絶大だが現在は当たり前
このように医療行為に関することについては、病院経営・医院経営だと経費削減がほぼ不可能であることに気が付きます。
唯一、医療機関にとって大幅なコスト削減が可能な医療行為は医薬分業です。院内調剤を可能な限りやめて、院外処方せんを出すようにするのです。これによって、以下の高額なコスト削減が可能です。
- 薬剤師の雇用費用をカットできる
- 薬剤の在庫が大幅に減る
- レセプト請求が簡素化される
- 患者さんからの待ち時間へのクレーム対応が減る
こうして、ありとあらゆる無駄なコストを減らすことができます。薬価差益はなくなるものの、それ以上に膨大な経費削減が可能となるのです。さらに外来の薬の調剤については、外部の調剤薬局にすべて丸投げできます。
ただ、こうした医薬分業はいまでは当たり前であり、ほぼすべての病院やクリニックが既に実施しています。そのため既に院外処方せんがメインの医療法人にとっては、その他の方法による固定費削減を考えなければいけません。
病院経営・医院経営で可能な経費削減の方法
それでは、医療現場が行えるコスト削減方策がほとんどないとすると、病院経営やクリニック経営ではどうやっても経費削減することができないのでしょうか。
これについては、数は少ないものの、医療費やその他のコストを下げる方法が存在します。医療法人が可能なコスト削減法が少ないからこそ、これらを確実に実施しなければいけません。そうした方法が以下になります。
- 医療廃棄物の管理
- 電気代の削減
- 損害保険の見直し
これらは共通点があり、どれもそこまで大変な作業ではありません。また、医療材料や医療機器のように医療の質にまったく影響しません。だからこそ、コスト削減できるようになっています。
医療廃棄物を正しく分別するのは効果的
医療現場で可能な経費削減は前述の通りほぼないものの、下落できる数少ない医療費として医療廃棄物があります。医療廃棄物の処理は非常に値段が高いため、この費用をカットするのです。
医療行為をしていると、血液採取などによって、医療廃棄物として処理しなければいけないものが出てきます。これについては、当然ながら医療廃棄物として適切に処理しなければいけません。感染性廃棄物となるため、正しく処分しないと医療機関から病気を蔓延させてしまうリスクを生じます。
ただ、感染性廃棄物の処理は値段が高いです。契約業者によって値段は変わりますが、70L(10kg以内)だと700円ほどの費用です。こうした感染性廃棄物については、一つの診療科だけでも1週間で2~5万円ほどの費用になっているのは特に珍しいことではありません。
そこで、こうした費用を見直しましょう。使い終わった医療材料について、グチャっと入れるのではなく、袋の空気を抜いた後に隙間なく廃棄物用の箱に詰めれば、一つのボックスで多くの感染性廃棄物を捨てられるようになります。
また感染性廃棄物の区別を付けるようにしましょう。以下のように感染性廃棄物は分類されます。
- 注射針
- カテーテルやバッグ類
- 使用済みのガーゼ・脱脂綿
- 切除された患者さんの組織片
- 尿コップ、紙おむつ
一方で非感染性廃棄物もあります。非感染性廃棄物については、ダンボールなどと同じように一般的な産業廃棄物として処理できるようになっています。つまり、感染性廃棄物として捨てるときよりも圧倒的に値段が安いです。
具体的には、手袋やサージカルマスク、エプロンなどは非感染性廃棄物に該当します。要は、患者さんの血液や体液が付着していない場合、非感染性のゴミとして廃棄できるようになっています。
病院や医院で出るゴミについて、感染性廃棄物なのか、それとも非感染性廃棄物なのか見直すようにしましょう。医療従事者でこれらを正しく見極めて廃棄している人は稀です。それでいて廃棄費用は高額になりやすいです。
透析など、特に廃棄が多い場合はこれだけで年間100万円以上の医療費削減になるのは普通です。医療現場で行える医療費削減としては、実践可能な数少ない対策なので、病院やクリニックでは積極的に医療廃棄物の見直しをしましょう。
電気代は施設規模が大きいほど削減できる
また医療機関の場合、必ず大量の電気を利用することになります。クリニックであったとしても、MRIやCTなどの大型機器を備えている場合は電気代が高額ですし、これが病院になると月の電気代は異常なほど高くなります。
ただ医療という関係上、節電は無理です。空調を弱めたり、医療機器の電源を切ったりすると患者さんの命に関わります。もちろん正しい医療行為を行うことができず、むしろインシデントを起こす可能性が高まります。
そのため医療法人の場合、節電とはまったく異なる方法にて電気代削減を検討しなければいけません。具体的には、電力会社の切り替えをしましょう。
電線や発電所は完全に同じなので、電力会社の見直しをしたとしても品質は同じです。違うのは値段だけであり、電気代だけが低くなるという方法になります。
病院規模が大きくなると、当然ながら電気代削減の威力は大きくなります。クリニックだと月数万円ほどの削減になりますが、病院だとかなり高額なコスト削減が可能です。例えば、以下は建物一棟(地上5階、地下1階)の施設にて、電気代削減をしたときの最終見積もりです。
この施設では年間で1629万5172円の電気代でした。そこで電力会社変更による電気代削減をすることで、年間の電気代を年間約249万円も減らすことができました。特に労力はありませんが、このような高額なコスト削減が可能になります。
もちろん小規模の病院やクリニックの経営者であっても、電力会社の見直しによるコスト削減は可能です。
医療機関は損害保険の掛金額を見直すべき
同時に必ず見直すべき項目が損害保険です。特別な理由がない限り、病院やクリニックでは損害保険に加入しているはずです。医療行為は常に訴訟と隣り合わせであり、賠償責任保険に加入しなければ訴訟が起きて負けたとき、高額な賠償金を支払うことができません。
- 医療行為によって患者さんの容態が悪くなった
- ろうかにある備品に当たって患者さんが転び、ケガをした
- 病院内の食事によって食中毒が発生した
これらのインシデントが発生したとき、賠償責任保険に加入していれば補償がおりるようになります。
また建物を保有したり借りたりするとき、火災保険に加入するのが当然です。火災保険に入るからこそ、火災や台風などの自然災害によって施設が破損したときに補償されるようになります。
ただ病院だと、規模が大きいので損害保険の費用は高額になります。クリニックでは病院ほど損害保険の掛金額は高くないものの、すべての医院経営者が損害保険に加入しているはずなので、見直しすることで固定費削減が可能です。一般的には、以下の金額を削減できます。
- 火災保険:10~30%を削減
- 賠償責任保険:30~60%を削減
- 火災保険と賠償責任保険の両方:50~60%を削減
例えば、以下は沖縄県にある中規模病院での火災保険の保険料削減例です。
この病院の場合、火災保険料は年間211万5010円でした。そこで火災保険料の見直しを行うことで、ほぼ同じ補償内容ですが192万2040円に下落させることができました。約10%の削減と今回の削減率は低かったですが、内容がほぼ変わらずに値段だけ下げることができました。
また火災保険と賠償責任保険の両方を見直しすると、より高い削減率になります。そのため病院でもクリニックでも、医療法人であれば一瞬にして高額な固定費削減が可能になります。
医療経営では固定費削減が重要
最適な医療経営を継続するためには、売上を出すだけでなく、無駄なコストを省くことを考えなければいけません。ただ医療法人の場合、一般的な経費削減のアイディアは意味がありません。人件費や医療材料費の削減は現実的に不可能だからです。
そのため、コスト削減可能なアイディアは存在しないように思えてしまいます。ただ病院やクリニックの場合、「医療廃棄物の処理」「電気代」「損害保険」について高額な経費削減が可能です。
医療廃棄物については、チーム医療にて現場スタッフが医療現場の環境を改善することで達成できます。一方で電気代と損害保険については、特にあなたや現場スタッフが努力する必要はなく、コスト削減が可能な専門会社に依頼するだけで労力なしに経費削減できます。
そこで、病院経営や医院経営をしている医師は無駄なコスト削減をするため、ここまで述べてきた経費削減法を試しましょう。それだけでも、すぐに高額な固定費の節約が可能になります。
法人コスト削減法の中でも、損害保険(自動車保険、賠責・工事保険、取引信用保険、火災保険)の削減を考えるのは重要です。そこで、専門業者を利用することで損害保険の一括見積をしましょう。
新規加入は当然として、既に法人用の損害保険に加入している場合であっても、こうした見積もりによって大幅に損害保険の金額を下落できます。
もちろん、法人によって加入している保険や必要な保険は異なります。そこで必要な損害保険の値下げを考えましょう。損害保険は内容を同じにしつつ、さらなる値下げが可能であるため、いますぐ大幅なコスト削減が可能です。
【自動車保険】
車を法人所有している場合、法人自動車保険の契約・乗り換えをしましょう。自動車保険は高額であるため、コスト削減の威力は大きいです。
【火災保険】
店舗経営者やオフィスを利用している法人であれば、ほとんどの人で火災保険に加入しています。そこで一括見積をすれば、一瞬で保険料の減額が可能です。
【賠償責任保険・工事保険・労災上乗せ保険】
賠償責任保険や工事保険、労災上乗せ保険など、損害賠償に備えるための保険は多くの会社で必須です。ただ賠償額が大きいと保険金額も高くなります。そこで、これら賠償責任保険や工事保険、労災上乗せ保険の見直しをして無駄な経費を抑えましょう。
【貨物保険】
貨物自動車の運送事業者について、お客さんから預かった荷物が輸送中に破損してしまうリスクがあります。そこで、物流に関わる事業をしている会社にとって貨物保険は必須です。
【取引信用保険】
法人経営でよくあるリスクが取引先の倒産や一定期間の支払遅延などの債務不履行です。これによって連鎖倒産してしまいますが、取引信用保険を利用すれば貸倒損失リスクを軽減できます。特に売掛金が多い場合、取引信用保険を活用しましょう。