銀行からの借入金について、中小零細企業経営者のあなたはどのようなイメージを抱いていますか?
「できれば借金(銀行からの借入金)を無くしたい」と考えている経営者は多いです。これは、借入金は返済期限までに銀行へ返済すべきものだと捉えているからにほかなりません。
その原因は「借入金を銀行へ返済できなければ会社は倒産する」という恐怖心が経営者の中に根強くあるからではないでしょうか? そのため、「借入金残高をできるだけ無くしたい」と中小零細企業の経営者が考えても不思議ではありません。
融資を受けるとき、中小零細企業経営者のあなたは借入金の連帯保証人になっていて、個人所有の不動産などの担保を銀行に差し出します。会社が倒産しても連帯保証人のあなたには借入金の返済義務があり、担保に差し出した不動産を失うことになります。
しかし、「銀行へ借入金の返済ができない=会社の倒産」は誤解です。そのような恐怖心は間違いだと認識して、「会社経営を行うためには、銀行から融資を受けなければならない」ことを経営者は理解しなければなりません。
もくじ
借入金の返済が大変な理由
毎月返済する借入金というのは、単純に稼いだ金額から返済するわけではありません。実はその前に利益に対する税金(法人税・住民税・事業税)を税務署などへ納税しなければなりません。
なぜなら、利益(税引き前利益)を計上すると必ず税金が発生するためです。そのため、まずは利益から税金を納めた後(差し引いた後)に残った金額から、銀行へ借入金を返済しなければならない仕組みになっているのです。
こうした事情があるため、借入金の返済は思っている以上に大変です。
借入金元本の返済に必要な利益(税引き前利益)
それでは具体的な金額を用いてシミュレーションしましょう。
例えば、月額の借入金元本180万円を返済するためには、必要となる利益(税引き前利益)は300万円です。
利益に対する法人税率を40%だと仮定すれば、このときの300万円の根拠は次の通りになります。
利益(税引き前利益)300万円=借入金元本180万円+税金120万円(利益300万円×税率40%) |
融資した金額を返済してもらうのが銀行の商売このように借入金元本180万円を返済するためには、税金分(120万円)を上乗せした300万円の利益が必要になります。
融資した銀行は「税金分を上乗せした利益(税引き前利益)が返済すべき財源である」ことを承知のうえで、「貸したお金を返しなさい」と要求してきます。借入金の元本に金利を上乗せしてあなたの会社から返済してもらうことで、銀行は利益を獲得しなければならないからです。
そのような銀行のスタンスに対して中小零細企業の経営者は「借りたお金は必ず返さなければならない」と考えます。借入金を銀行へ返済するために税金を滞納したり、中には高利貸しの消費者金融から経営者の個人名義で借金したりする人までいます。
しかし、あらゆる支払先の中で支払いを一番後回しすべきなのは銀行への借入金返済です。それは、税金分を上乗せした利益を財源として返済するのが大変なのはもちろんですが、銀行への返済が滞っても事業運営に支障をきたすことがないからです。
支払先へ支払う優先順位
中小零細企業経営者のあなたが「会社経営を行う上で銀行から融資を受けなければならない」ことを理解するためには、支払先へ支払う優先順位を知っておく必要があります。借入金返済ができなくなったとき、銀行への返済に対する恐怖心を払拭するためです。
「新規の顧客を確保できるという見込みがあり、新商品を大量に仕入れて業績向上させるチャンスが到来している」などにより銀行からの融資が必要な場面があったとします。
このとき、借入金の額が大きくなることにより、「倒産してしまうのではないか」という恐怖感のあまり、借り入れによる資金調達に躊躇していては本末転倒といえます。
例えば、運送業が事業を拡大することで年間1,000万円の利益が獲得できる見込みがある場合、トラックの台数を増やさなければなりません。トラックを購入するためには銀行からの融資により資金調達が必要になります。
そのような状況の中で、銀行から融資を受けることに躊躇すれば年間1,000万円の利益(10年間で1億円の利益獲得のチャンス)を見逃すことになります。
そのような事態に陥らないためにも、支払先の優先順位を中小零細企業の経営者は知っておかなければなりません。事業活動に必要な支払いが滞れば、支払先(仕入元など)からの商品やサービスの供給が途絶えます。すると商品を得意先に販売することができず、最悪の場合は倒産に陥ります。
そのようなリスクを回避するため、優先順位の高い支払先を順に以下で紹介していきます。
給料の支払い
「給料=生活費」です。給料の支払いが滞れば、「この会社は危ないのではないか」と従業員は敏感に反応します。そうすると社員は転職を考え出します。従業員の収入源はあなたの会社から支給される給料だけだからです。
例えばあなたの会社の得意先がA社のみの場合、A社が倒産すれば現金預金として入金される資金が無くなります。そうすると新たな得意先を開拓しなければなりません。
そのため、経営者のあなたは営業活動を行う必要があります。ただ。従業員へ給料を払わないとなると、社員は会社を辞めてしまうので事業が滞るようになってしまいます。
こうした理由があるため、給料の支払いは優先順位が高いです。
支払手形の口座引き落とし
支払手形とは、代金の支払いを先延ばしにする金券のことです。具体的には支払先に現金預金の代わりに手形を振り出して、相手に渡します。数カ月後に支払手形の支払期日が到来すると、あなたの会社の当座預金から支払代金が引き落とされる仕組みになっています。
支払う優先順位が給料の支払いの次に高い理由は、「支払期日において当座預金残高が不足しているために口座からお金を引き落とせないと、事実上の倒産となる」ことを意味するからです。具体的には半年以内に2回不渡り(支払手形の金額が口座から引き落とせないこと)を出すと、銀行から「取引停止処分」を受けることになります。
「取引停止処分」を受けた場合、あなたの会社は銀行との取引(当座預金での取引や銀行からの融資)ができなくなります。事業を円滑に遂行するのに必要な口座が使えず、確実に経営が成り立たなくなります。
また、一回目の不渡りを出すと、その情報はそれぞれの銀行に伝わり、あなたの会社がブラックリストに載ります。法律的には「取引停止処分」を受けていなくても、銀行からの信用を失い、支払手段として手形を振り出すことが不可能になります。
例えば、商社がメーカーに対して、支払手形から現金預金へと支払手段の変更を余儀なくされると、商品の仕入代金の支払いは前倒しになります。これが、支払手形が使用できた場合は、3ヶ月後や半年後など遅れてお金を支払うことが許されているため、これを活用することで資金繰りに余裕が生まれます。
ただ、手形の不渡りを出すほど資金繰りに窮している会社では、現金払い(前倒しでの支払い)を実行できるはずはありません。こうした事態を避けるため、支払手形の支払いは優先順位が高いです。
商品代や外注加工費などの支払い
会社の販売に直結する費用が商品代・原材料代や外注費です。このような費用の支払いを遂行できないと得意先に商品やサービスの供給ができなくなります。そのことについて具体例を用いて説明します。
・商品
スーパーなどの小売業や商社などの卸売業は商品を仕入れた後に消費者や得意先に販売します。その商品がなければ、お客様への販売ができません。
・原材料
製造業など、自社で物を作って販売するためには、製品を作るために必要な原材料は欠かせません。原材料があってはじめて製品を販売できます。
・外注加工費
他の会社や個人事業主などの専門家へ外注することはビジネスを円滑にまわすためには必須です。
例えば、Web制作会社などがホームページ作成の仕事を受注したとき、ロゴマーク作成などを外注としてデザイン会社に発注するケースが多いです。そのとき、あなたの会社が外注費をデザイン会社に支払わなければ、受注先へのホームページの納入を実現することができなくなります。
このように、販売に直結する費用を支払わないと得意先に商品やサービスの供給することができなくなります。これでは収入が発生しないために給料などの支払いができず、事業は成り立ちません。
家賃など諸経費の支払い
販売に直結しない費用でも、事業を継続させるためには「諸経費」の支払いが必要です。主な諸経費としては家賃、水道光熱費、電話代、ガソリン代など、その項目は多岐にわたります。
例えば、パソコンを使うのに電力は欠かせません。しかし、電気代を支払わなければ電力の供給はストップしてしまいます。そうするとパソコンは使用できなくなり、事業活動に支障をきたします。
販売に直結しないため、すぐに売上に悪影響することはありませんが、諸費用の支払いが滞れば数ヶ月後にビジネス継続に必要なサービスが供給されなくなります。
税金や社会保険料の支払い
税金や社会保険料を滞納しても、事業活動に必要な資源(商品や電力)の供給がストップすることはありません。しかし、滞納が続けば税務署(=税金)や日本年金機構(=社会保険料)などによる財産の差し押さえがあり得ます。
差し押さえの対象は現金預金に換金できる財産になります。具体的には現金預金、不動産、売掛金(売上代金の未回収分)などが挙げられます。
例えば、売掛金の差し押さえが実施されると、「この会社は税金や社会保険料を滞納している」ことが得意先に筒抜けになります。その結果、あなたの会社は得意先からの信用を失うことになります。そうすると今後の販売に悪影響を及ぼします。
借入金返済
上記の支払いを行った後に、ようやく借入金の返済を行うといいです。銀行への借入金返済こそ最も後回しにすべきなのです。その理由は以下のように2つ存在します。
- 事業活動に支障をきたさない
- リスケジュールができる
リスケジュール(リスケ)とは、「銀行から融資を受けた際に契約した借入金の返済期日を先延ばしにする」ことをいいます。
例えば、毎月20日に借入金元本180万円の返済をリスケジュールすると、主に次のようになります。
- 借入金元本の返済を毎月180万円から50万円に減額する
- 借入金元本と金利の上乗せ分の返済を据え置きにする
- 借入金元金の返済だけ据え置き、金利だけを数万円支払う
銀行へ借入金返済が困難になったときは「リスケジュールする」という選択肢があるため、「借入金が返済できない=会社の倒産」は誤解であるといえます。こうしたことを理解したうえで、「代金の未払いによって、事業活動に支障をきたすリスクの高い支払先」から優先的にお金を支払いましょう。
いずれのケースも当初の「借入金元本180万円に金利を上乗せした額を一括で返済する」という場合に比べて負担する金額が軽減されるため、資金繰りの苦しさから解放されます。
銀行から融資(借入)を受けなければならない理由
前述の通り「借入金の返済ができない=会社の倒産」という論理は誤解に過ぎません。そして、このように借入金に対する恐怖心を取り除いたところで、次に事業の存続・拡大のために中小零細企業の経営者が銀行から融資を受けなければならない理由について解説します。
事業を存続させるため、資金調達を有利にする体制づくりを実現する
給料や仕入代金の支払いに必要な現金預金が足りなければ、事業を存続させることができません。その場合には銀行から融資を受けて資金を調達しなければなりません。そのために資金調達を有利に進める体制づくりが必要不可欠でとなります。
資金を供給する側の銀行があなたの会社へ融資する基準のひとつとして、過去の借入金返済の実績が挙げられます。なぜなら、銀行がお金を貸すときは、貸付先(あなたの会社)が返済してくれるかどうかを念頭に置いているからです。
ここで質問します。業績の全く同じ以下の会社が2つあるなら、あなたはどちらの会社にお金を貸しますか?
- 過去にお金を貸して、返済してもらった実績のあるC社
- お金を一度も貸したことがないD社
もちろんC社にお金を貸したいはずです。過去に返済してもらった実績があるため、「きちんと返済してくれる会社」であることが証明されているからです。
例えばあなたが商品を販売するときはまったく面識のない会社よりも、過去に売上代金の支払い実績がある取引先を優先するはずです。銀行も全く同じ考えであり、過去に返済実績があれば、あなたの会社は金利を上乗せして借入金を返済してくれる取引先(得意先)になります。
借入金の返済実績を作って銀行と信頼関係を築くと、いざというとき資金調達するためのリスクヘッジになります。資金繰りが苦しい会社に対して、返済実績のない会社に融資するのに銀行は少ないです。銀行は「貸したお金が貸し倒れ(返済不能)になる」ことを恐れるからです。
このように銀行から融資を受けて返済実績を積み重ねることで、資金調達を有利にする体制が出来上がるのです。
時間を買い取って事業を拡大させる
事業活動は先行投資(商品やサービスを提供するため、先に仕入れや設備投資などを行うこと)して、商品を販売することで事業を拡大させていきます。その資金を確保するために銀行から融資を受けなければなりません。
例えば事業拡大のため、「儲かりそうな立地条件にある物件」に居酒屋2号店をオープンさせるためには、新たに雇用する従業員の給料や厨房設備などに先行投資しなければなりません。
しかし、オープンする前は2号店での売上実績がないため、先行投資に必要なお金を確保する必要があります。
そのとき、選択肢は2つあります。
- 貯蓄して現金預金残高を増やす
- 銀行から融資を受けて資金調達する
貯蓄により現金預金残高を増やせば先行投資する資金は確保できます。実際に貯蓄できる金額は収入金額から支出金額を差し引いた残りになります。ただ、ビジネスでは一般的に「仕入れなど、事業活動に必要な費用」を先払いによって負担しなければなりません。
そのため、まとまったお金を貯めるのに時間がかかります。それでは居酒屋の2号店をオープンすることは現実的には難しいです。あなたの会社が貯蓄している間に、「儲かりそうな立地条件にある物件」がライバル店に奪われる可能性があるからです。
そのような時間のロスによる機会損失(2号店をオープンできなかったことにより獲得できたはずの利益の喪失)は、銀行から融資を受けて先行投資することで避けられます。借入金による資金調達は「貯蓄するのに必要な時間を買い取る」ことを意味するのです。
目指すは実質無借金経営
借入金残高にネガティブなイメージをもつ中小零細企業の経営者は「無借金経営」が理想だと考えているのではないでしょうか? しかし、前述のように借入金の返済実績がない場合、銀行から融資を受けるのに不利といえます。
そのようなリスクを防止するためには「実質無借金経営」を目指しましょう。
「無借金経営」と「実質無借金経営」は意味が違います。以下にどのような違いがあるのかについて確認します。
- 無借金経営は、文字どおりに借入金(借金)がないことを指す
- 実質無借金経営は、現金預金残高が借入金の金額より多いことを指す
例えば現金預金残高2億円、借入金1億円の状態であると、いつでも銀行へ全額返済できます。そのような状態が「実質無借金経営」なのです。
「無借金経営」と違って、実質無借金経営では返済実績を積み重ねているので、資金繰りが苦しいとき、さらに事業拡大したいために先行投資をしたい場合に銀行から融資を受けやすい体制が構築されています。
実際、このサイトを運営している当社も実質無借金経営です。資金繰りには全く困っておらず、現金預金もそれなりに豊富にあります。それにも関わらず、銀行から借金をしています。
これは、銀行との関係性を保っておきつつ、何かチャンスがあって大きな投資をしなければならないときが訪れたとき、容易にお金を借りられるようにするためです。
「銀行からの借入金で会社は倒産しない」ことと、「融資を受けて返済実績を作ることで資金調達が有利になる」ことを中小零細企業の経営者は理解して、事業の存続・拡大を実現していなかなければなりません。
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