海外に住む場合、一般的には住民票を抜きます。海外移住によって日本の非居住者になるため、住民票を抜くことで日本に住所が存在しないことになります。
ただ場合によっては、住民票を残すことを考える人もいるかもしれません。駐在員や海外移住節税など人によって移住の目的は異なりますが、住民票を残すことによって国民年金などの保険料を支払うことになり、さらには健康保険証を残すことができます。
また住民票を残す場合であっても、生活拠点が海外なのであれば、日本の非居住者に該当します。ただ実際には、日本の保険証を残しても利用場面はほぼ存在しません。また、住民税にも影響します。そのためメリットとデメリットを考慮しなければいけません。
それでは、住民票を残す場合はどのような税金(住民税・所得税)になるのでしょうか。また海外に住むにあたり、居住判定や医療費をどのように考えればいいのでしょうか。住民票を残す場合の税金や海外在住での医療費などについて解説していきます。
もくじ
住民票を抜けば、住民税の対象外になる
特別な理由がない限り、海外移住によって住民票を抜きます。理由としては、そのほうが圧倒的に税金を削減できるからです。住民税の判定基準は「1月1日に住民票があるかどうか」で決まります。また住民税は前年の所得を参考に決まります。
そのため、例えば12月末に住民票を抜いて海外移住する場合、翌年の住民税がないため、無駄な税金の削減が可能です。住民税率は10%であるため、例えば前年の課税所得が400万円なのであれば、住民税は40万円です。こうした税金を軽減できるのです。
所得税については、日本から離れた時点から日本への納税義務はなくなります。長期で海外に滞在する場合、海外に到着したときから日本の非居住者となり、日本の所得税は関係なくなります(その代わり、現地での納税が必要になります)。
一方で住民税は1日1日の居住地が判定基準になるため、年の途中で移住しても、日本への住民税の支払い義務はなくなりません。ただ翌年からは、住民票がないと住民税の支払い義務がありません。
※サラリーマン(駐在員)が海外渡航する場合、住民税の支払いには租税条約も関係するものの、内容が複雑になるためここでは省きます。
海外収益メインなら住民税はいずれゼロになる
なお場合によっては、住民票を残すことを考える人もいます。この場合、住民税の納付義務は残ります。ただ住民票を残す場合であっても、住民税の支払いはどこかの時点でゼロになります。
海外の会社で働いていたり、オフショア法人を利用して海外移住節税をしたりする場合、日本で納めなければいけない税金はありません。つまり、日本での所得はゼロです。
日本での課税所得がゼロであるため、住民税率10%をかけてもゼロになります。これが、どこかの時点で住民税がゼロになる理由です。
住民票を抜く場合に比べ、住民票を残すと総額での住民税の支払額は必然的に高くなります。住民税がゼロになるタイミングが遅くなるからです。ただ、海外収益がメインであればどこかの段階で日本の課税所得がゼロとなり、住民税もゼロというわけです。
日本での所得がゼロであるため、住民票を残すことによって例えば国民健康保険に継続加入するにしても、必要な毎月の支払額は最低となります。そのため住民票を残すにしても、課せられる所得(課税所得)がゼロなのであれば、国民健康保険の支払いは大きな負担ではありません。
なお日本で不動産収入があるなど、日本で必ず確定申告をしなければいけない人もいます。この場合は例外的に日本で課税所得が発生するため、住民票を残す場合、住民税が発生することになります。
日本の非居住者の判定に住民票はメインではない
なおサラリーマン(駐在員)は関係ないものの、海外移住節税を考えている人では、日本の非居住者の判定に住民票の有無がどれだけ影響するのか気になります。
税務上の非居住者になるための要件は厳しいです。このとき、最も重要な判定基準に不動産(恒久的施設:PE)があります。言い換えると、あなたが日本国内で賃貸契約を残していたり、事務所を継続して保有していたりする場合、大半を海外で過ごしていたとしても日本で課税されます。
そのため税務上の非居住者となり、日本への納税義務をゼロにするためには、日本国内にある物理的な施設(不動産)の契約をすべて解除しなければいけません。また持ち家がある場合、ほかの人へ賃貸として貸し出すなどの対策が必要です。
これにより、名実ともに日本の非居住者となって、日本への所得税・住民税・法人税・消費税・キャピタルゲイン税などの支払いがなくなります。ただ住民票を日本に残すと、住所が日本に存在することになるため、税務調査で否認されるのではと考える人が多いです。
もちろん住民票は抜いたほうがいいですし、そのほうが日本の非居住者として認められやすくなります。ただ海外に住んでいる場合、住民票を残しても日本の非居住者として判断されます。これは、住民票が日本に存在するかどうかよりも、実態が優先されるからです。
過去の裁判による判例でも、住民票が日本に存在するかどうかではなく、実体が優先されています。そのため海外移住節税では、「海外で年の半分以上を過ごしている」「日本に賃貸契約がない」「家族と一緒に移住している」などの基準のほうが重要になります。
海外の医療費はそこまで高くない
ここまでの内容を理解すると、サラリーマン(駐在員)であっても、海外移住節税を考えている人であっても、住民票を残して海外移住することは特に大きな問題にならないとわかります。
ただ実際のところ、住民票を残すことに大きなメリットはありません。理由として、アメリカを除き、海外の医療費はそこまで高くないからです。
日本は少子化が加速し、100%の確率で払い損になるとわかっているため、年金の保険料を率先して払いたいと考える人はいません。一方で医療費を心配する人は多いです。海外では日本のような医療制度が充実していないため、医療費のことを考えて住民票を残すことにより、国民健康保険も残すことを考えるのです。
しかし、アメリカなどの特殊な国を除き、海外の医療費は日本と大きく変わりません。例えば私はマレーシアやフィリピンなど海外に住んでおり、地元の歯科医へ定期メンテナンスで出向いたときの支払いは約3000円でした(100%自費での支払い)。また私の妻が親知らずを抜いたとき、費用は3万円ほどでした。
参考までに、フィリピンだと子供の出産費用は20~40万円ほどです(普通分娩と帝王切開で費用が大きく異なる)。
日本であっても、大けがをして入院をしない限り、クリニックや病院で支払う費用はそこまで高くないと思います。多くは数千円ほどであり、3割負担でこの金額です。それが自費の場合、3.3倍ほどになりますが、そこまで大きな負担ではありません。
また重病向けの薬ではなく、一般的な薬であれば、海外だと薬局で購入できます。例えば抗菌薬や抗アレルギー薬など、日本だとクリニックを受診しないと入手できない医療用医薬品を海外では薬局で購入できます。また、必要な数の薬のみ買うことができるため出費は少ないです。
日本に帰って保険医療を受ける機会はほぼない
また実際のところ、医療のために海外在住者が日本へ帰って病院を受診する機会はほぼありません。日本へ帰国する場合、航空券代や滞在費(ホテル代)などを考慮すると、非常に高額な費用が必要になるからです。
前述の通り、アメリカを除いて海外の医療費はそこまで高くないため、日本へ帰って保険医療を受けるのではなく、現地の病院を受診するほうが圧倒的に安いし便利です。
そのため住民票を残しても、健康保険証を利用する場面は非常に少ないです。年に数回、日本へ帰ることはあるかもしれませんが、そうした場面でしか利用できないのです。
100%自費でも医療費が高くないことを学べば、海外での医療費をそこまで心配する必要はないとわかります。ただ注意点として、海外では病院によって値段が違います。要は、日本とは違って自由に値段設定できるのです。
そのため日本人向けの病院・クリニックだと、質は悪いのに非常に高額になります。そのため、可能な限り現地の病院・クリニックを活用しましょう。そのほうが医師の腕は良く、医療費も格安です。
・クレジットカードの海外旅行保険を利用することは可能
参考までに、クレジットカードに付帯されている海外旅行保険を利用することは可能です。多くの場合、対象のクレジットカードで航空券を購入する場合、本人が海外で病気やケガをしても補償されます。このときはキャッシュレス受診となり、病院での支払いはありません。
またグレードの高いクレジットカードの場合、家族付帯になります。つまり、カードの保有者だけでなく、家族も含めて海外旅行保険が適用されます。
クレジットカードの海外旅行保険は「日本から海外へ渡航し、3ヵ月が過ぎるまで有効」となります。そのため、その間であれば現地でケガや病気をしてもクレジットカード付帯の保険でカバーできます。
海外移住で住民票を残すかどうか考える
日本の非居住者になるとき、住民票を残すかどうか悩む人は多いです。住民票を抜くメリットは大きく、翌年から住民税がなくなります。住民票を残す場合であっても海外収入がメインなら、住民税はいつかゼロになります。ただ、住民票を抜くほうが早い段階で住民税がゼロになり、大幅な節税になります。
そのため特別な理由がない限り、サラリーマンや海外移住節税をしたい起業家・投資家を含めて住民票を抜きます。海外に住む場合であっても医療費は高くないですし、全額自費であっても特に困ることはありません。また、日本の健康保険証を利用する場面はほぼありません。
ただ、住民票を残すことは可能です。実態が重視されるため、住民票が日本にあっても日本の非居住者となります。住民票というのは、税務上の非居住者の判定でものすごく重要なわけではありません。
ここまでの内容を理解して、海外渡航をする前に日本に住民票を残すかどうかを考えましょう。それぞれのメリットとデメリットを考慮して判断する必要があります。
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