鍼灸整骨院や訪問マッサージを運営している事業所であると、療養費の保険請求をすることになります。患者さんは3割の自己負担になりますが、残りの部分については健康保険組合・国保・社保など(以下、保険組合)に療養費を請求することになります。
つまり、療養費は後で支払われることになります。
しかし整骨院・接骨院でそのようにお金が後払いされる状況だと、どうしても資金繰りが悪くなります。鍼灸整骨院だと新規開業やリフォーム、医療機器の購入など多くの資金が必要になるからです。
そうしたときの資金調達法としてファクタリングが優れています。ただ、整体師・柔道整復師にとってファクタリングは身近ではないため、どのような仕組みになっているのか見当がつきません。そこで、療養費の保険請求をファクタリングするやり方や手数料について解説していきます。
もくじ
保険組合へのレセプト請求を早めに現金化する仕組み
ファクタリングの仕組みについては、売掛金を早めにお金に変える手法になります。整骨院の場合であれば、一般顧客からは現金払いしてもらえます。そのため、お客さんから直接受け取るお金について売掛金が発生することはありません。
ただ、療養費の保険請求をするケースが多いです。そうしたとき、保険請求したお金が振り込まれるのは2~3か月後です。しかも自治体など審査部門によって審査期間はバラバラであり、4~5ヶ月後になることも頻繁にあります。
そうしたとき、保険請求したお金(売掛金)の回収が整骨院にとって非常に重要な経営課題となります。患者さんは一般的に3割負担(高齢者は1割負担)であるため、残りの7割のお金が振り込まれるまでが整骨院経営者の仕事になります。
ただ、7割ものお金が何ヵ月も先に入金されるとなると、キャッシュフローが悪くなるのは当然です。そこで、療養費請求による売掛金を先に売買するものとしてファクタリングがあります。
売掛金がなければファクタリングを活用できないため、患者さんから直接お金を受け取る部分についてはファクタリングの対象になりません。あくまでも、療養費として保険請求した部分のみファクタリングできるようになります。
そのため、鍼灸師や整体師・柔道整復師などで自費治療のみを取り扱っている場合だと売掛金が発生せず、ファクタリングによる資金調達は関係ないと考えましょう。
保険請求による売掛金のファクタリングは一般的
このときファクタリングを利用すれば2~5日ほどで現金化できるようになりますが、これらレセプト請求したお金を早めにお金へと変える手法は意外と普通に行われています。
例えば、以下は医療機関で実施されている債権譲渡の件数になります。
出典:社会保険診療報酬支払基金
社会保険診療に関する支払基金が「ひと月での債権譲渡件数」をデータとして発表していますが、一ヵ月で以下の件数が実施されています。
- 病院・クリニック:1,555件
- 歯科医院:1,374件
- 調剤薬局:2,695件
鍼灸整骨院や訪問マッサージの会社ではないものの、こうした診療報酬・調剤報酬を取り扱っている医療機関でも積極的にファクタリングを利用していることが分かります。
当然ながら、整骨院も同様に保険請求を行うことになるため、問題なくファクタリングを実施できると考えましょう。
保険組合と整骨院・訪問マッサージの会社が契約を結ぶ
このとき、契約内容やお金の流れがどのようになるかというと、多くが3社間ファクタリングになります。「あなたの整骨院」「ファクタリング会社」「保険組合」の3つの会社・機関で契約を結ぶため、3社間ファクタリングと呼ばれています。
保険請求を行うファクタリングの場合、特別な理由がない限りは3つの会社・機関で契約を結んだうえでのファクタリングとなるため、以下のようになります。
- 整骨院が保険組合へレセプト請求する
- ファクタリング会社が2~5日後に整骨院へお金を支払う
- 保険組合がファクタリング会社へ保険請求されたお金を支払う
保険請求したお金については、素早くファクタリング会社から入金してもらうことができます。そのため、2~3ヵ月も入金を待たなくて問題ありません。すぐにお金が入金されるため、その分だけキャッシュフローは大幅に改善されます。
ただ、実際の保険請求分のお金については、保険組合からファクタリング会社へ支払われるようになると考えましょう。
取引先や患者さんに知られずに現金化できるメリット
こうした整骨院・接骨院や訪問マッサージの会社がファクタリングを利用するときに優れているのは、取引先や患者さんに知られずにファクタリングを実施できることです。
通常の3社間ファクタリングだと、取引先に対して「売掛金のファクタリングを実施したいのだが、問題ないか」と承諾を取らなければいけません。そうなると、取引先は「この会社は資金繰りが悪く、経営が良くないのでは」と考えるようになります。
一方で鍼灸整骨院や訪問マッサージが契約を結ぶとはいっても、契約先は公的機関である保険組合です。こうした保険組合は整骨院がファクタリングをすることに慣れていますし、当然ながらファクタリングを利用していることが外部に漏れることはありません。
そのため、かなり気軽にファクタリングを実施できるようになっています。一般企業だと3社間ファクタリングはハードルが高いものの、整骨院であれば保険組合と契約を結ぶだけで完了します。
・銀行融資のような審査がなく、決算書が汚れない
ちなみに、ファクタリングだと銀行融資のように厳密な審査がありません。そのため非常に手軽であり、赤字企業や決算書の内容が悪い会社であっても問題なく利用できるようになっています。
しかも、売掛金の早期現金化なので特に決算書が汚れることもありません。お金を受け取れる権利(売掛債権)を早めにお金に変えているだけだからです。そのため、将来は銀行融資によって大きな資金調達を考えている会社であっても問題なくファクタリングを利用できます。
保険請求の性質上、手数料は低め
また、こうした保険請求に関わるファクタリングだと手数料が非常に低くなっているのが特徴です。例えば医療機関でのファクタリングだと、0.5~3%の手数料率が一般的になっています。
このように銀行融資並みに低い料金相場となっているのは、支払基金の信用性が圧倒的に高いからです。
通常のファクタリングでは一般企業同士の売掛金が相手になります。普通の会社なので倒産リスクがあり、貸し倒れとなってしまうことがあります。そのため、手数料率は20%など高めになります。
一方でこれら保険組合だと貸し倒れリスクがゼロです。仮に支払いが滞る場合、そのときは日本が潰れるときになります。そのため貸し倒れリスクがなく、結果的に非常に低い手数料となっているのです。
これは整骨院も当然ながら同様であり、ファクタリング手数料は非常に低額と考えましょう。審査がほぼなく、手数料率が銀行融資金利以下であることも、多くの整骨院がファクタリングを利用している理由となります。
レセプト請求額の8割以下が買取の対象になる
しかし、注意点もあります。それは、買取対象になる売掛金の範囲です。こうしたレセプト請求する形式でのファクタリングについては、売掛債権の全額が買取対象になることはありません。
で整骨院や訪問マッサージでの売掛金だと、レセプト請求した金額の8割以下しか現金化できません。例えば、200万円の売掛金がある場合だと「200万円 × 80% = 160万円」がファクタリングの対象になります。
このように売掛金の一部がファクタリングされるのは、返戻や減額査定などがあるからです。特に整骨院・接骨院だと保険請求が切られてしまうケースも多く、支払基金や自治体の状況によってはなかなか保険請求を通してもらえないことがあります。
場合によってはファクタリングでの買取対象が8割ではなく、6~7割になることもあります。いずれにしても、全額を買い取ってくれるわけではないことを理解しましょう。
・残りのお金は後で戻ってくる
それではレセプト請求したお金の8割をファクタリングしてくれるとして、残り2割のお金についてはどうなるのでしょうか。これについては、保険組合がファクタリング会社にお金を支払った後、残り2割についてファクタリング会社が整骨院・接骨院側に支払ってくれます。
つまり、以下のように2段階でお金の支払いがあると考えましょう。
- 一次払い:売買手数料が差し引かれ、約8割が戻ってくる
- 二次払い:残り2割の全額が戻ってくる
二次払いについては、売掛債権の売買対象にはなっていません。そのため手数料が加わることはなく、全額が支払われるようになります。
長期契約が一般的となるデメリット
他のデメリットとしては、長期契約になってしまうことがあげられます。一般的に保険請求に対するファクタリングについては、1~2年間の契約が普通になっています。
公的機関の保険組合が潰れることはないため、既に述べた通り保険請求による売掛債権は信頼性が高く、手数料率が非常に低くなっています。そのため、1~2回だけの利用だとファクタリング会社としては利益を出すことができません。これが、長期契約となる理由です。
銀行融資でも、一括返済は受け付けておらず何年にもわたって徐々にお金を返していくようになります。これと同じことが保険請求のファクタリングにもいえるのです。
・ファクタリングなしでも問題ない資金繰り計画を立てる
ただ手数料率が低めなので、銀行融資を受けていると考えれば、実はそこまで大きなデメリットではないと考える経営者は多いです。それよりも問題なのは、ファクタリング利用が前提となる資金繰り計画になってしまうことです。
鍼灸整骨院や訪問マッサージだと売掛金の回収が2~3か月後になり、自治体や支払基金によってはさらに支払いが遅れます。これが2~5日後にファクタリングできるとなると、圧倒的に優れているように感じしてしまい、そのままずっとファクタリング活用を継続してしまうのです。
ただ、いくらキャッシュフローがよくなるとはいっても手数料をそれだけ差し引かれていることには変わりがありません。そのため、契約が切れた後はファクタリングなしでも問題ない財務体質に改善しておく必要があります。
整骨院が療養費の現金化をするメリットは大きい
ここまで説明してきたことが、療養費の保険請求を早めに現金化するときのメリット・デメリットとなります。
一般的にファクタリングは手数料が高くなっています。早めにお金に変えることができるのは優れているものの、高い手数料のために躊躇してしまう会社経営者がたくさんいます。
しかし、整骨院は保険請求を行う先が保険組合であり、潰れることがないので手数料率が非常に低くなっています。さらには3社間ファクタリングを実施したとしても、契約先は公的機関なので特にビジネスに支障が出ることはありません。
こうした好条件がそろっているため、鍼灸整骨院や訪問マッサージにとってファクタリングの敷居は非常に低く、メリットが大きくなっています。もちろん保険請求額の全額が買取対象ではないなどのデメリットはありますが、それ以上のメリットを受けられるのが整骨院・接骨院でのファクタリングです。
資金調達のためにファクタリングを利用する場合、ファクタリング会社はたくさんあります。このとき、会社によって審査基準はバラバラですし、申し込みをしないと手数料は分かりません。そのため、複数社にあいみつ(相見積もり)を取るのが失敗しないコツです。
また、「素早い資金調達は可能か」「手数料相場は低いか」「土日対応できるか」「少額買取に対応しているか」など、ファクタリング会社によって方針がバラバラです。そうした中で優れた業者を選ぶ必要があります。
当然、偽装ファクタリングをしている闇金業者ではなく、真っ当なファクタリング会社を選ばなければいけません。利用業者に失敗すると、後で大変なことになります。
以下のページでは、私が実際に何社ものファクタリング会社を利用した中から、特に優れた業者だけ厳選しています。それぞれの特徴を理解したうえで複数社に申し込みをすれば、売掛金売買での失敗をなくすことができます。