素早く資金調達し、現金化する手法としてファクタリングが知られています。こうしたファクタリングは介護報酬についても可能であり、多くの障害福祉サービスや放課後等デイサービスなどの機関が取り入れている手法でもあります。
実際のところ、医療機関が実施する報酬に比べると介護報酬の金額は少なくなりがちです。それにも関わらず高度な設備が必要なケースは多く、お金が必要な場面が出てきます。
このとき、銀行融資のような審査が不要であり、売掛金を素早く現金化できる手法が介護報酬ファクタリングになります。
ただ、介護報酬のファクタリングを活用するときはどのような点に注意しなければいけないのでしょか。ここでは、「老人施設などの福祉サービスを実施する事業者がどのようにして売掛債権の早期現金化を実現すればいいのか」について解説していきます。
もくじ
社保・国保の支払基金でのファクタリングは普通
新たな施設を作ったり、設備投資をしたりするとき、どうしても大きなお金が必要になります。そうしたとき、ファクタリングを検討する経営者はたくさんいます。
実際のところ、病院やクリニック、調剤薬局などの医療機関であっても積極的にファクタリングを実施しています。以下は社会保険料の支払基金が記した「ひと月での、診療報酬の債権譲渡を実施した施設件数」となります。
出典:社会保険診療報酬支払基金
このように、非常に多くの施設がファクタリングを実施していることが分かります。
介護福祉サービスを実施している会社のデータはないものの、いずれにしても診療報酬や介護報酬を利用した売掛債権の早期現金化は普通だと考えて問題ありません。
老人施設・放課後等デイサービスで重要な資金調達
なお、こうした福祉サービスを実施する施設としては老人施設などがメインとなり、他にも放課後等デイサービスなどがあります。大きく分けると、以下のようになります。
- 老人福祉施設(老人ホームや介護サービス)
- 障害者支援施設
- 障害者グループホーム
- 生活保護施設
- 婦人保護施設
- 母子父子福祉施設
- 精神障害者社会復帰施設
- 児童福祉施設
- その他の施設
こうした施設のうち、老人ホームなど施設利用者から直接お金を受け取っている事業所(全額自費負担)の場合だとファクタリングは関係ありません。ファクタリングというのは、あくまでも企業間の取引によって発生する売掛金を早めに現金化する手法だからです。
ただ、障害福祉サービスを提供している事業者だと介護報酬を受け取るケースも多いです。こうした介護報酬は約2か月後に支払われますが、介護報酬は売掛債権の一つなのでファクタリングを実施することができます。
老人施設などとはいっても、あくまでも介護報酬による売掛債権が発生する事業所のみファクタリングを利用できると考えましょう。
福祉施設でファクタリングする仕組み
それでは、実際に介護報酬が発生する障害福祉施設がサービスを提供した後、介護報酬の早期現金化による資金調達をするときはどのような仕組みになるのでしょうか。これについては、「福祉施設」「ファクタリング会社」「支払基金」の3つの機関が契約する3社間ファクタリングになります。
このとき、契約を結んだあとは以下のようなお金の流れになると考えましょう。
- 福祉施設が介護報酬を国保連に請求
- ファクタリング会社から福祉施設へ2~5日後に振り込まれる
- 国保連からファクタリング会社へ介護報酬が支払われる
通常であれば、福祉施設が国保連に介護報酬を請求するため、お金は「国保連 → 福祉施設」という流れになります。
ただ、介護報酬のファクタリングでは3社間で契約を結びます。そのため、介護報酬はファクタリング会社に支払われるようになります。その代わり、福祉施設は介護報酬を国保連へ請求してファクタリング会社からお金の先払いをしてもらうことになります。
ファクタリング会社からお金が支給されるとき、当然ながら売買手数料を差し引いての支払いになります。
得意先へ通知が行かず、信用を失わないメリット
こうした仕組みによってファクタリングを実施するため、障害福祉施設がファクタリングを実施するときは非常に活用しやすくなっています。
3社間で行う通常のファクタリングだと、取引先に対して「ファクタリングを実施したいのだが問題ないか?」と事前に通知しなければいけません。そうなると、得意先は「この会社は資金繰りが悪く、経営状況が悪化しているのでは」と勘繰られます。
一方で介護報酬のファクタリングだと、売掛債権の相手先は国保連です。公的機関であり、あなたの会社がファクタリングを利用していることが外部に漏れることはありません。ビジネスへの影響なく、早期の現金化が可能になります。
また介護報酬ファクタリングを実施している福祉施設はたくさんあるため、国保連としては手続きに慣れています。そのため特に心配することなく、手軽に売掛債権の現金化を実施できます。
売掛債権の信用度が高く、手数料は低い
他に介護報酬のファクタリングが優れている点として、手数料率が非常に低くなっていることがあります。
一般企業が行うファクタリングだと、売掛債権の信用度が低いです。ファクタリング会社が売掛金を買い取るとはいっても、企業の債権なので貸し倒れのリスクが高いです。そのため、通常のファクタリングだと手数料率20%など高額になりやすいです。
それに対して、介護報酬は国保連が支払います。公的機関であるため、貸し倒れのリスクがほぼゼロです。仮に国保連からの支払いが滞る場合というのは、日本が潰れるときです。そのためお金が支払われない事態がほぼなく、非常に安全な売掛債権なのでファクタリング手数料が低くなっているのです。
どれくらいの手数料率が一般的な相場かというと、0.5~3%となります。医療・介護に関わる報酬へのファクタリングというのは、あらゆる業界の中でも最も低い手数料率に抑えられているのです。
ファクタリング会社によって手数料率は異なりますが、こうした現状のため「銀行融資による利子よりも、ファクタリングを実施するほうが手数料を抑えられる」ことも頻繁にあります。
銀行融資と異なり、ほぼ審査なしで資金調達できる
またファクタリングの優れている点として、ほぼ審査がないことが挙げられます。一般企業同士の売掛金でも審査なしにファクタリングできるメリットがあり、これが貸し倒れリスクゼロの介護報酬となるとさらに審査がゆるくなります。
そのため、福祉施設がファクタリングをする場合は99%以上の確率で審査に通過します。そのため、「過去にニュースになるような大事件を起こした」などの事業所でない限りはファクタリングを利用できると考えましょう。
当然、開業直後で信用度の低い老人施設であっても問題なくファクタリングを実施できます。赤字会社であっても、税金未納の状況であっても可能です。
銀行融資のような長い審査期間がなく、開業直後でも利用でき、さらには手数料率低いことにより、結果として多くの障害福祉施設がファクタリングを利用するようになっています。
また借金ではないため、決算書がまったく汚れないのも介護報酬のファクタリングを活用するメリットとなります。介護報酬という性質上、ファクタリングをするときはかなり優遇されていると考えましょう。
保険請求額の8割が売買の対象となる
なお、注意点として保険請求額の100%が買取の対象になるわけではありません。売掛債権のうち、8割が売買されるようになります。
例えば保険請求額が500万円の場合、「500万円 × 80% = 400万円」に対してファクタリングが行われ、400万円から売買手数料が差し引かれた金額が早期に振り込まれるようになります。
なぜ、全額ではなく8割が対象になるのでしょうか。これは、介護報酬だと返戻や保留、減額などによって保険請求額が満額支払われないケースが頻繁にあるからです。こうした保険制度特有の問題があるため、どの介護事業者もファクタリングを利用するときは8割ほどが対象になるのです。
・残り2割は後で戻ってくる
それでは、ファクタリングの対象にならなかった残り2割のお金についてはどのようになるのでしょうか。これについて心配する必要はなく、後で戻ってきます。実際に介護報酬が国保連からファクタリング会社に支払われたあと、残り2割部分についてはファクタリング会社から介護事業者に全額支払われるのです。
つまり介護報酬のファクタリングを利用する場合、一次払いと二次払いが存在すると考えましょう。
- 一次払い:保険請求額の8割については、手数料を差し引いて支払われる
- 二次払い:保険請求額の2割の全額が支払われる
このような仕組みになっていることについては、事前に理解したうえで介護報酬のファクタリングを実施するといいです。
仕訳・経理処理は難しくない
なお、実際の仕訳・経理処理について考える人は多いですが、実際のところ難しくありません。保険請求時に売掛金を計上することになりますが、ファクタリング会社から入金されたとき、そのつど売掛金を消していけばいいだけです。
例えば500万円の保険請求を出し、8割に当たる400万円がファクタリングの対象になるとします。このとき手数料1%なら、400万円は「396万円(振り込まれるお金) + 4万円(ファクタリング会社の売買手数料)」に分けることができます。
実際の仕訳では、手数料については売上債権売却損の勘定科目を使います。
勘定科目 | 借方 | 勘定科目 | 貸方 |
現金 | 3,960,000 | 売掛金 | 4,000,000 |
売上債権売却損 | 40,000 |
また、後で残り2割(今回は100万円)がファクタリング会社から振り込まれることになります。そのため、100万円分の売掛金を後で仕訳することになります。
勘定科目 | 借方 | 勘定科目 | 貸方 |
現金 | 1,000,000 | 売掛金 | 1,000,000 |
会計処理はこのようになるため、特別な経理作業をするわけではありません。
1~2年の長期契約が一般的となるデメリット
このように非常に優れた制度になっている障害福祉施設のファクタリングですが、デメリットもあります。それは、3社間ファクタリングでの契約が1~2年と長期になっているケースが多いことです。
一般的な銀行融資についても、借りたお金を一括返済することはなく毎月少しずつ返済していきます。そうしないと、銀行にとって手数料(利子)を安定的に受け取ることができないからです。
同じことはファクタリング会社にもいえます。一回だけの利用だと、介護報酬ファクタリングは非常に手数料率が低くなっているため、ほぼ儲からなくなります。そこで、ある程度の長期契約を必須にしていることが多いです。
もちろん手数料は低額のため、銀行融資などに比べてもそこまで負担にはなりません。ただ、このように長期契約が一般的なのはデメリットです。
・ファクタリングなしでも問題ない財務体質にする
なお、どちらかというと「ファクタリング活用が前提となる資金繰り計画になってしまう」ことのほうが問題となります。
手数料は必要になるため、当然ながらファクタリングは利用しないほうがいいです。あくまでも資金調達手段の一つであるため、キャッシュフローが改善されたのであればファクタリング活用なしでも問題なく福祉施設の経営が回るように調節しましょう。
そうして契約が切れた後、通常の介護報酬支払のサイクルに戻すように注力します。ファクタリングありきの資金繰り計画は微妙なので、このような「お金が素早く現金化できる計画」で経営してはいけません。
約2ヵ月分だけが現金化の対象になる
他のデメリットとしては、売掛債権の対象が約2ヵ月までと決まっていることがあげられます。前述の通り、介護報酬が実際に支払われるのは約2か月後となります。どうやっても2ヵ月ほどの売掛債権しか発生しない以上、この部分だけがファクタリングの対象になるのです。
一般的な会社の場合、入金が半年後などのようなケースがあります。こうなるとキャッシュフローが非常に悪くなり、お金の流れが滞るために倒産しやすくなります。そのため、ファクタリングで早めに債権をお金に変えることは大きな意味があります。
ただ介護報酬だと2ヶ月後となるため、「現金にできる限度額は2ヵ月間の介護報酬金額」だと考えるようにしましょう。
なお、中には2ヵ月を超えて「保険請求金額の8割 × 4ヵ月分」などをお金に変えてくれるファクタリング会社も存在します。ただ、この場合だと通常のファクタリングと同じように手数料が非常に高くなってしまうため、あまりおすすめしません。
介護施設で売掛債権を早めに現金化する
障害福祉施設にとってお金の問題は非常に重要です。全額自費の老人ホームだと関係ないですが、介護報酬に頼っている福祉施設の場合、利用者からはその場で利用金額の1割しか支払ってもらえません。残り9割は国保連から支払われるため、後払いになってしまいます。
そのため、どうしてもキャッシュフローは悪くなりがちです。そこで、福祉事業を展開している多くの経営者がファクタリングを検討します。
一般的なファクタリングとは異なり、福祉施設だと「審査が圧倒的にゆるい」「手数料率が低い」「得意先にファクタリングの実施がバレない」などとメリットが多いです。これは、公的機関がお金を支払う仕組みになっているからです。
ただ、保険請求額の8割が買取対象だったり、長期契約が必要だったりするデメリットについても理解しましょう。そうして介護報酬ファクタリングを実施すれば、資金繰りを改善できるようになります。
資金調達のためにファクタリングを利用する場合、ファクタリング会社はたくさんあります。このとき、会社によって審査基準はバラバラですし、申し込みをしないと手数料は分かりません。そのため、複数社にあいみつ(相見積もり)を取るのが失敗しないコツです。
また、「素早い資金調達は可能か」「手数料相場は低いか」「土日対応できるか」「少額買取に対応しているか」など、ファクタリング会社によって方針がバラバラです。そうした中で優れた業者を選ぶ必要があります。
当然、偽装ファクタリングをしている闇金業者ではなく、真っ当なファクタリング会社を選ばなければいけません。利用業者に失敗すると、後で大変なことになります。
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