個人事業主や法人経営者は資金繰りを改善させるために経営努力をしなければいけません。こうしたキャッシュフローを改善する方法の一つにファクタリングがあり、その一方で同時にトラブルが発生することもあります。

売掛金売買をするファクタリングですが、もちろんきちんと利用するだけなら特に何も問題は起こりません。ただ、経営者によっては横領・不正をしてしまい、結果としてお金を返せない状況に陥ってしまうことがあります。

そうなると、ファクタリング会社は得意先に通知を出すことで資産の差し押さえをするようになります。これだと取引先との正常なビジネスが継続できなくなり、結果として個人事業主・法人でのビジネスがとん挫します。

そこで「どのような場面で不正が起こり、また横領をしてしまったときにどう対処すればいいのか」について解説していきます。

ファクタリングの横領・不正は3つに分かれる

売掛金の早期売買をすることにより、横領などの不正を犯してしまう経営者には当然ながら共通点があります。どのようにして不正をするかというと、大きく以下の3つに分けられます。

  • 売掛金の使い込み
  • 請求書の偽装・架空請求(売掛金の水増し)
  • 二重譲渡

それぞれ、どのような内容になっているのかについて詳しくみていきます。

売掛金の使い込みは非常に多い

当然ながら、ファクタリング会社は審査をすることで「買取した売掛金が回収できない事態が起こらないように、事前に対策を練る」ようにします。そのため、経営者が虚偽の内容を申告していないか、あらゆる方向から審査されます。

しかし、ファクタリング会社で防ぐことができないものとしてお金の使い込みがあります。

多くの場合、売掛金の売買では2社間契約となります。ファクタリング利用について得意先への通知がなく、あなたの会社とファクタリング会社の2社間だけで契約が成立する方法になります。ただ、2社間契約だと横領が簡単にできてしまいます。

2社間ファクタリングだと、以下のような流れとなります。

  1. 手数料を差し引き、ファクタリング会社から早期にあなたの会社へお金が支払われる
  2. 取引先からあなたの会社へ売掛金が数ヵ月後に支払われる
  3. あなたの会社は振り込まれたお金をそのまま、ファクタリング会社へ送金する

売掛金の買取をしてもらう場合、その時点で売掛金はファクタリング会社のものになります。そのため、取引先から振り込まれたお金は全額そのままファクタリング会社へ送金しなければいけません。ただ、得意先からの入金分についてファクタリング会社へ支払うことなく、そのまま使い込んでしまうことがあります。

当然、これは横領と同じです。ただ、実際のファクタリングではこうした横領をやってしまう個人事業主・法人経営者がいます。

請求書の偽装・架空請求(売掛金の水増し)

他には、請求書金額の水増しをするケースも多いです。取引先へ請求書を発行することで売掛金が発生するものの、このときの請求書を偽装することで「通常よりも多くの売掛金が発生している」ように見せかけるのです。または、架空の請求書を作ることもあります。

これをやってしまうと、ファクタリングによって多くのお金を手にすることができます。ただ、請求書を偽装しているので手元にお金がなく、確実にお金を返せない状況に陥ってしまいます。

請求書といっても、自由に好きなだけ作ることができます。また、数字を操作するのも簡単です。そのため、売掛金の水増しや架空請求での請求書作成を行う経営者はそれなりに多いです。

当然、ファクタリング会社も事前の審査によって請求書の偽装を防ぐようにします。実際、どの業者も事前に過去の通帳コピーを提出するように求めてきます。私がファクタリングを実施したときについても、以下のように3ヵ月分の通帳コピーを送るようにしました。

通帳コピーから、過去にどのような取引をしているのか確認できるようになります。通帳に載っていない取引先の請求書だと審査落ちになりますし、通常よりも売掛金額が多いときについても不審に思われてしまいます。

ただ、請求書を偽装してこれらの審査に通過した場合は早期にお金が振り込まれるようになります。売掛金の水増しをしてはいけないものの、人によっては偽装した結果、お金を返済できなくなってトラブルに発展します。

二重譲渡で複数業者に譲渡する

売掛金の売買で生じる不正としては、二重譲渡もかなり有名です。同じ売掛金について、複数の業者へ譲渡する手法を二重譲渡といいます。

ただ、売掛金は当然ながら一つしか存在しません。そのため二重譲渡をすると、100%の確率でお金を返せない状況に陥ります。

これを防ぐために行うのが債権譲渡登記です。売掛金に関する登記が可能であり、これを実施することで法律上でも「売掛金がファクタリング会社に移った」ことが明記されるようになります。同じ売掛金を登記するのは不可能なので、基本的には債権譲渡登記をすることで二重譲渡を防げます。

しかし個人事業主は登記できず、債権譲渡登記を実施できません。また、法人であっても債権譲渡登記を拒否することができます。そうしたとき、登記なしで売掛金売買の手続きを進め、複数のファクタリング会社へ売掛金買取をしてもらうと、二重譲渡ができてしまいます。

債権譲渡通知による差し押さえトラブル

それでは、実際にこれらの横領・不正行為をするとどうなってしまうのでしょうか。これについては、得意先に対して債権譲渡通知が内容証明郵便で発送されるようになります。

ファクタリング契約のとき、サインするのは契約書だけではありません。債権譲渡通知書についてもサインを求められるのが基本です。以下は私がファクタリングを利用したとき、実際にサインした債権譲渡通知書の一部です。

契約時はこうした書類に記入します。あとは、ファクタリング会社側が日付を書くだけでいつでも債権譲渡通知書を発送できるように準備するのです。

債権譲渡通知が発送された場合、得意先は売掛金の支払いをあなたの会社ではなく、ファクタリング会社に変更しなければいけません。そのように法律で決められた文章を送られてしまうためです。こうして、今後の売掛金について差し押さえを食らうようになります。

横領・不正によって支払い遅延や払えない状況に陥った場合、売掛金を差し押さえられるだけならまだしも、内容証明郵便の発送によって得意先との信頼関係に傷がつきます。そうして取引停止になり、ビジネスできなくなってすぐ倒産するようになってしまいます。

売掛金の売買で不正をするとリスクが非常に高いのは、その後のビジネスがとん挫するようになるからなのです。

法律事務所を利用して契約解除し、自己破産を防ぐ

それでは、実際に横領してしまった場合はどうすればいいのでしょうか。使い込みや請求書の偽装、二重譲渡を含め、これらの不正をやってしまうとほぼ100%の確率でお金を返済できない状況に陥ります。ファクタリングの場合、支払い遅延や分割返済は認められていないからです。

その場合、最終手段として弁護士に頼るしか方法はありません。当然ながら、法律事務所に依頼すると費用が発生します。そのため、できることなら弁護士に依頼しないほうがいいです。

しかし、横領して支払いが遅れると確実に内容証明郵便を発送されて取引先に迷惑をかけるようになるため、不正をしてしまったら早急に法律事務所へ相談するようにしましょう。

売掛金売買については、借金ではないので貸金業法などの適用は受けません。そのため、ファクタリング会社は金融庁の監督下に置かれているわけでもありません。

ただ、通常の借金に比べてファクタリング手数料が高額なのは間違いありません。例えば、3ヶ月後に振り込まれる売掛金の買取をしてもらい、手数料率10%だったとします。この場合、「3ヵ月で売掛金の10%が手数料」なので、年利換算だと40%になります。

当然、年利40%は貸金業法に違反です。そのため弁護士を間に挟むことで、スムーズに交渉できるケースがあります。そうすれば契約解除ができ、自己破産を防ぐことができます。

弁護士を利用して可能なことを理解する

実際のところ、ファクタリングに対する見解について、金融庁としても資料がないので意見が分かれているのが現状です。ただ、過去にはファクタリング業者が「実質的に貸金業に該当する」として逮捕されたケースがあります。

例えば、以下のようなニュースです。

このように、ファクタリング業者として運営しているものの「実質的には闇金と同じ」として摘発されているケースもあります。通常の貸金を逸脱した手数料であることには変わりがないため、このようになっているのです。

そのため横領や不正をしてしまった場合、弁護士を利用することで以下のような対応が可能になります。

  • 返済の遅延や分割の交渉
  • 債権譲渡通知の発送阻止
  • 自己破産回避のための債務整理
  • ファクタリング業者との和解交渉

ファクタリングの場合、支払いの遅延や分割返済などは認められていません。また、支払いが滞ると得意先に内容証明郵便で債権譲渡通知が発送され、結果としてその後のビジネスができなくなります。これを未然に防げるのが法律事務所の活用です。

契約解除してもお金は返さなければいけませんが、弁護士に依頼するからこそ柔軟な対応が可能になるのです。

また、場合によっては過払い金として返還請求することも可能です。すべてのケースで返還請求できるわけではないですが、ケースによってはお金が返ってくるようになるのです。

ファクタリングで横領した場合、事業がうまく回って立ち直ることができたり、銀行融資が下りたりなど資金繰りの奇跡的な回復がない限り、どこかで資金ショートを起こすようになります。そのため、早めに弁護士と相談するのが適切です。

将来のキャッシュフローを見据えるのが基本

なお、架空請求や二重譲渡などの不正によって資金調達をすると「ファクタリング会社に返すためのお金について、別のファクタリング会社を利用して資金調達する」などの自転車操業に陥り、どこかの段階で必ず資金ショートを起こすようになります。

そのため、キャッシュフローを考えるうえで最も重要なのは「売掛金売買を用いた不正を行わない」ことです。

横領をして放置すると確実に債権譲渡通知が送られるようになりますし、ファクタリング会社としても何とかして債権回収をしようとします。そうなるとすぐに会社が倒産するようになり、自己破産しか方法がなくなってしまいます。

また弁護士に依頼するという方法があるにしても、当然ながら法律事務所へ支払う費用が上乗せされるので総額でみると大きなマイナスとなります。

そもそも、ファクタリングは何度も実施するべきではありません。それだけ手数料が高額だからです。そのため、資金繰り改善のために本当に必要な場面でのみ利用しなければいけません。

または、ビジネスローンなどその他の資金調達法を検討しても問題ありません。ビジネスローンであれば貸金業法の範囲での金利であるため、ファクタリングよりもかなり低い手数料で資金調達できます。

ただ、既に横領をしてしまった場合は手遅れの状況であるため、早めに弁護士に相談するなど対策を立てるといいです。

トラブル時の対策を事前に理解するべき

他人のお金を横領してはいけません。当然、ファクタリング会社を利用して資金調達したお金について、不正を働いてはダメです。しかし、個人事業主や法人経営者によっては不正をしてしまうことがあります。

そうなると、どこかの段階で必ず資金ショートを起こすようになってトラブルに発展します。ファクタリングで生じるトラブルは決まっており、ファクタリング利用者がお金を返さないときに起こります。

しかし、そうなると債権譲渡通知が取引先に発送されてしまい、売掛金の差し押さえも食らいます。こうしてビジネスが滞り、倒産・自己破産の道へ進むようになります。そこで早めに弁護士へ相談するなどの対策を練りましょう。

お金の使い込みや請求書偽装・架空請求、二重譲渡などの不正はいけないものの、既にやってしまった場合はその後の対策を早めに考えることが重要だといえます。

このときおすすめの法律事務所はイストワール法律事務所です。ファクタリングでのトラブル事例を多く取り扱っているためです。もちろん自ら弁護士を探してもいいですが、ファクタリングに強い法律事務所を知らない場合はイストワール法律事務所に依頼するといいです。